どん底まで尽くす女が我に返った瞬間⑦

どん底まで尽くす女が我に返った瞬間①

2019-04-14

どん底まで尽くす女が我に返った瞬間⑥

2019-04-28
登場人物
ユウキ…猛アピールして来たくせに、彼女持ちだった魔性の21歳。

HANA…私の親友。私が幸せになるように、心から願って協力してくれる。

ジュンさん…ユウキの一番仲のよい先輩。

喉から手が出る

私の仕事は、年末年始に10連休以上が強制される。
いつもより1時間早く出ているにも関わらず、出勤前から予約の電話が鳴り響き、すでに75%埋まっているタイムスケジュールを塗りつぶして、食事は施術合間の5分で口に突っ込んで終業まで。

ブラックにもほどがあるんだけど、毎年の事で。つらい時期ではあるけれど、従業員8人で協力して乗り越えるお祭りだと思って楽しんでいた。
お互いの技術力の高さを信頼し、チームワークが良いからこそ、全国の店舗ランキングで3位以内をキープしていたというのは自慢である。

私は仕事の、内容も職場も同僚たちも全てが大好きだった。

お客様もいろんな方が居て、強く揉まれるのが好みの人、お話が止まらない人、意地でも寝ない人…相手の好みを探り、心地よい接客と揉み加減でリラックスして頂くには、なかなか神経を使うのだけれど…

この時の私は、やはりどこか気持ちがココに在らず。

プロとして失格だ。
わかっていても、完全に堕ちてしまった自分をコントロールすることができなかった。

お客様に頂く褒め言葉よりも。
同僚たちからの信頼よりも。

今、ユウキの隣に居たい。

どうして一緒に居るのが私じゃないの。
どうして直前まで教えてくれなかったの。

私を拒否してくれたなら、こんなに苦しくないのに。

彼女さんと一緒に過ごしているらしいユウキが、気になって仕方ない。
放って置いてくれればいいのに、2時間に1度くらいLINEを送って来るから余計に。

「仕事忙しいから構わないで」

あえて冷たく返すと

「ちゆがいい。ブスを放って会いに行こうかな」
「そういうの、要らない」
「ちゆ。大好きだよ」

私の貴重な食事の時間が、あっさりと過ぎて行く。
空腹での力仕事は眩暈を起こさせたけれど、夢心地の私には特に関係なかった。

激務であるはずの連勤折り返し。
食事よりも、休息よりも、ただユウキだけを欲して年を越した。

マイナス10℃の初詣。
当然、私の願い決まっている。

ユウキを一人占めできますように

執着

北海道、内陸の1月と2月は一番冷え込む厳しい季節。
最低気温がマイナス20度近い事も当たり前、最高気温がマイナス5度もあれば「温かいね」と感じるほど。

当然、路面もアイスバーンになっている。
ツルツルのスケートリンクのようで、慣れた地元のドライバーでも油断すれば路肩へ突っ込んでしまうから要注意。
「冬の間は極力運転しない」という人も多い状態だ。

ただし、頭がおめでたく仕上がった乙女には、そんな状況も足かせにはならない。
夏道の運転でさえ怖がっていたクセに、愛する彼のためならアイスバーンの峠さえも軽く超えると言うのだから驚きだ。

ユウキに会いたくて、堪らなかった。
最初は驚いた顔が見たくて必死だった。

彼女が他の友人の元へ移動した1月3日の深夜1時。
仕事が終わるなり電話をして会いたいと訴える。

ユウキは寝ぼけた声で対応していたけれど、私の本気を汲み取って応援してくれた。
たったそれだけで頑張れた。

はじめて一人で辿りついた彼の部屋。
つい数時間前まで彼女さんがいた場所で、力一杯ユウキに抱き着く。

「ちゆのニオイ、久しぶりだ…そんなに会いたかったの?」

抱き締めて、嬉しそうに頭を撫でてくれる笑顔に涙が出た。
会いたくて、会いたくて、触れて欲しくて。
首がもげるほど頷いて、苦しい程に体温に浸る。

「なに、この可愛い生き物
俺のためにココまでくるとかヤバい

頑張って良かった。
ユウキが会いたいなら、いつでも会いに来るよ。

仕事の疲れが全て吹き飛ぶ。
ユウキが喜んでくれるなら、なんでもしようと思った。

ユウキのために、いつでも行くよ

彼女さんの足りない部分で、私が頑張ろうと思ってしまった。
この日から、私は車で彼の部屋に行くのが当たり前になった。

見返り

私は無償の愛だと言い張る。

彼女さんが最優先だから、私は2番目が幸せだ。

ユウキの負担になりたくないから。
私が傍に居たいだけだから。
ユウキの淋しさを埋められるなら、それだけで幸せ。

気付けば、ユウキにも私自身にも、そう言い聞かせていた。

彼女と別れるといいながら、行動に移さないユウキに焦れた。
けれど、責めることが出来なかったから。

ネットで調べて得意になってたんだ。

居心地の良い女が選ばれるって

だから、ユウキの気持ちを察して尊重していれば、いつか選んで貰えると信じてた。

傷付きたくないから、たくさんの事を見えなくしている。
それでも良かった。尽くせば報われると本気で思っていたから。

だから、気付かなかった。

見返りを求めないことが、彼を苦しめるって。

「おいで、ちゆ」

呼ばれて、彼の腕に収まるのが好きだ。

「…ねぇ、どうしてそんなに幸せそうな顔するの」

だって幸せだから。他になんの理由があるの?

「ちゆのその顔、ズルい。全部で俺の事好きじゃん

なぜかそう言って、頬を撫でるユウキは苦い顔をする。
愛しいと、きつくきつく抱きしめるのに、ツラそうに顔を歪めるから不安になる。

気付いてなかったんだ、最初から。
私なんて愛される訳がないと決めつけて。

愛の受け入れ方を知らなかったから

ちゃんと対等に向き合えたら、もっと心地よかったかもしれない。

人は借りを作ることがイヤだと本能で感じるから。
私が見返りを求めず、ユウキに施す事で借りを作らせていたんだ

私が自分の価値を不当に低く見積もったせいで、結局のところ居心地が悪かったんだと今ならわかる。

「好きだよ」と愛情を伝えている相手に、「ウソでも嬉しい」と言われたらどう思う?
慢性的に信じて貰えない状況は心地いいハズなかったんだ。

底なしに愛したいと思うのなら、底なしに愛される覚悟も持たなくては対等じゃない。
そんなことを知らないまま、居心地の良い女なんて程遠かったんだ。

アイシテル

一緒に居るユウキが、切ない顔をすることが多くなってきた。
その度に私は胸が苦しくて、夜明け前の紫色を見ては涙が止まらない。

「彼女さんを大事にしてあげて」

そう言うと、ユウキが力強く抱きしめてくれたんだ。
そう言うと、離したくないと言わんばかりに愛してくれたんだ。

甘えてたけど、限界だった。

だって私は、もともと独占欲が強いから。
普通の友達にさえ妬くのだから、「2番目」の位置に居られたのは、それだけ彼を愛していた証拠だと思ってる。

でも、私だけを見てくれないのは、ツラい。

「ユウキ…愛してる」
「なに、急に」

「愛してるから、さよならしたいんだ」

試したりはしてない。
純粋に、彼女さんの事でモヤモヤすることが限界だっただけ。
ユウキの辛そうな顔を見るのが限界だっただけ。

ちゆは、俺のだろ?

俺以外にキスされてもいいの?
俺にぎゅってされなくていいの?」

「だって、ユウキは…私のじゃないから」

「…無理、ちゆと離れるとか、ムリ!」

男の顔をして、弟みたいな顔をして、どの顔も愛しくてヤバい。
押し倒して、ジッと見下ろすその熱っぽい目にゾクゾクする。

私が弱いのを知ってて揺さぶる、ズルい所が好き。愛してる。

「私は…そんなユウキと一緒に居ることが、ムリ」

だんまり。

口を突き出して、言葉を探す表情が好き。
何してても好き。どうしようもなく好き。
一夫多妻制が許されるなら、それでも構わないくらいだよ。

縛り付けたい。

「本気で、彼女と別れようかと思ってる」
別れてから口説いてくれる?待ってるとは限らないけど」

「彼女、4月からこっちに帰ってくる」

「良かった。じゃあ、今日でさよならね」

2月の終わり。さよならを告げた。
煮え切らない態度に、こっちは引いてるんだから。
すがらないで、カッコ悪い所を見せないで。

「愛してる。ありがとう

聞き分けのない子を宥めるように、頭を撫でて背中を向けた。

帰りの車では、決まって誰かに電話する。
12月から私は電話に依存してた。ユウキに繋がらない時は、誰かと話していないと落ち着かなかったから。

情けないくらいにユウキしかなかった私を、友人たちは「仕方ないなぁ」となぐさめてくれる。
時に厳しく、優しく、「ユウキはやめろ」と諭しながら。
頑固な私が余計に固執しないように、好きにさせながら見守ってくれる優しさに甘える。

そうだ。私は全てに甘えてた。
自分を愛することも知らず、人にばかり求めてた。
埋まらない隙間を何かで埋める事に必死だった。

愛し方がわからないと思っていたけど、本当に知るべきは愛され方だったんだ。

そして、覚悟のない私は、コレを繰り返した。

家に着き、一晩寝ればまたユウキから電話に出てしまう。
LINEに「少しだけ」反応して、どツボにハマる。
求められる快感を覚えてしまう…。

「ねぇ、ちゆ。あいしてる」

愛されたくて、恋しくて、何度繰り返しただろう…

どん底まで尽くす女が我に返った瞬間⑥

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