どん底まで尽くす女が我に返った瞬間③

どん底まで尽くす女が我に返った瞬間①

2019-04-14

どん底まで尽くす女が我に返った瞬間②

2019-04-15
登場人物
ユウキ…なぜか私に猛アピールし始めた年下の青年。二次元のキャラクターみたいにツボを押してくる!!

HANA…私の親友。合コンでヤッチンとユウキと知り合い、私に紹介してくれた。面倒見がよく、とても優しい!!

ヤッチン…ユウキの先輩。HANAと気が合うようで良いカンジに見える。


ゆっくりと回り始める

ユウキとの出会いから2週間ほどの間に、私の見る世界がガラッと変わっていった。

北海道は本格的に冬へと季節が加速し、日によって真っ白に染まる。車が必須の田舎町に住んでいる私にとっては、大きな問題。なのだけど…

雪に反射して眩しく見える景色のように、浮かれた私にはすべてがキラキラ輝いてみえた。雪道の運転はキケン?そんなことが関係なく感じるほどに、意識が一点に集中していく。

この時の私は、お昼頃に起きて、15時くらいに出勤し、深夜まで働くというのが生活のスタイルだった。エステルームでのマッサージというのも地味に体力勝負な所があり、しっかりと食べて休んで出なくては務まらない。

…のだけれど。
気付けばユウキの出勤に合わせて起きて、仕事の後は寝落ちるまで電話をしたりLINEをしたり。恋す乙女って、それだけで限界を突破する力があるよね。

蜜月

PHSの番号を交換した次の日から、ユウキとの長電話が始まったのだ。

「もしもし?ちゆさんですか~?俺です」

「なにそれ、気持ち悪い」

「とか言って、俺からの電話嬉しいくせに。声、聞きたかったしょ?」

少し照れたような、ムズムズした話し方のユウキが新鮮でときめいた。
安定の加減をまちがえた返し方をすると、めげずに切り返してくる所にキュンとする。もう、話してる間はだいたいキュンキュンしてる。

「うーわ、どこから来るの?その自信」

「ははは、いや~、そうだったらいいなぁって思って!俺が、ちゆさんを一人占めしたいんだもん。仕事の準備とかいいじゃん、俺にだけ集中してよ」

「…っ、ばかなの?っていうか仕事に集中しなよ」

「それな~!あ、ごめん、着いちゃったからまたかけるわ!…イイコで待ってろよ?」

自分から電話かけてきて、置き去りにする?!

心理作戦として、花丸をあげたい。
飼い主の気まぐれに猫じゃらしされた、猫の気持ちになった。勝手にちょいちょいしてきたクセに、こっちが食いつきはじめたら自分の都合で終わりになるアレ。

ユウキの仕事は営業さん。担当の小売店に行って注文を取り、その商品を配達する。北海道はその担当範囲が広く、基本的には運転していることが多かった。
本当はいろんな理由でダメなんだけど…「ちょっとの時間でもちゆの声が聞きたい」と言ってかけてきては、彼のタイミングでぶった切られる会話が日常になっていった。

当時は月に2000円くらいで、同じ会社のPHS同士が話し放題のプランがあり、会社やプライベートのスマホは普通に使いながら、無駄な長話をするのにとても良かったPHS。

ひと時も離れたくない恋人同士が、多く契約していたイメージがある。

金額的にもそれほど負担ではなかったから、私も元カレと別れたあとに解約する訳でもなく。たまに離れた友人との長電話に使っていた。

「ホコリをかぶってたから、使い道が出来て良かったわ」

なんて余裕をこいた言い方をしてた私だけど。電話を通したユウキの声は、とても好みだったので内心で嬉しくて仕方がなかった。

そんな会話を、朝8時くらいから出勤する午後2時半くらいまで。 夜は電話しながら寝落ちする生活。

これって、恋人同士がやるやつじゃないの?!

夢中になりながらも、私からは聞けなかったのには理由があって。
前の彼氏とは、私が全力で3回告白し、フラれてもまだめげずにアタックを続けた結果、彼が根負けした形で付き合う形になったから。

今回は『相手に告白してもらって付き合う!』という強い意志があったのだ。

この時はまだ余裕があった。周りにはめっちゃ相談していたけれど「でも彼、年下だし~、付き合って欲しいって言われたら考えるわ」などと、ヲタクアラサーが調子をこいていた。

初デート?

「会いたい、一緒にご飯食べたい」

電話の中でユウキが「声だけじゃ寂しい」と言うので、リクエストに応えてあげることにした。ユウキの担当範囲と私の運転できる範囲のギリギリ重なる町でランチをすることになったのだ。

私は、たかが20分だけど峠を含むその道が苦手で、そのせいでHANAの街まで運転できないのだけれど。「ユウキが会いたいというから」という理由だけで乗り越える気になった。

しょうもない。と、お思いかもしれないが、この時に立ちはだかる壁はそれはそれは大きかったのに、飛び越えるという行動力が、ものすごいのだ。
車を運転するようになって何年も、越えようとしなかった峠を越える。

私の運転ヘタレっぷりを知っている人が、全員ポカンと口を開けて声も無く驚いた。「ちゆきがとうとうあの峠を越えるのか…!」

にわかには信じられない行動を、私は決意したのだった。

そんな試練を乗り越えつつの初ランチデート。

2人きりで会うと、いつも電話しているのに新鮮で。
2人とも、照れてしまいお互いを直視できずにはにかんだ。

初々しいってこういう事だよね?

営業マンや作業員でごった返すランチ帯の、観光客も地元民もあつまるそば屋。

オシャレでもなんでもないその空間が、甘酸っぱい特別さに満ちていた。

はじめて食べた訳じゃないのに、ユウキと一緒に食べる舞茸の天ざるが美味しくて。一口一口大切に味わう。

あっという間に、それぞれの仕事の時間が来てしまう。
名残惜しくて涙ぐみながらお互いが車に乗り込んで、また声だけを聞きながら帰路を進んだ。

※運転中の通話は、大変危険ですので絶対にいけません。

距離と時間と友情

認めよう。

11月の半ばには、ユウキと一緒に居たくてたまらない私が出来上がっていた。

それまでにHANAと会っていたのは、2ヶ月に1度か2度のペースだったのに。ユウキ達との出会いからは、休みの度に会いに行っている。
月に7回あるお休みすべてを、車や汽車で1時間かかる街まで通ってHANAと一緒にいた。

このあたりはもう、人として最低だと自分で思っているのだけれど…HANAと遊ぶのは本当に楽しいコトだと大前提にして、あわよくばユウキに会いたいという下心があった。

元カレの浮気から、少し男性不信だった私を全力で応援してくれるHANAに、心から感謝と信頼をしている。

HANAも本当に私を理解してくれていた。親友だからね。
細かくユウキについての相談をしていたし、当時の私は知らなかったけれど、ユウキからも相談を受けていたそうで。キューピッド役をかって出てくれていた。

私の休みは平日で、他のみんなは土曜半日、日曜休み。
だから日中に汽車で街まで移動し、どこかしらで時間を潰してみんなの仕事終わりにご飯へ行くのが定番になった。

ユウキは先輩方によく可愛がられていて、夕飯に付き合う事が多い人だった。
それは私と出会うからの習慣で、「本当はちゆと一緒にいたいのに…!」と悔しそうなLINE が来て、合流できるのは8時過ぎることが多かった。

次の日も仕事があること、私の終電の時間もあることから、一緒に居られるのはわずか2時間程度。

HANAはそんな私が少しでもユウキと居られるように、とても協力してくれた。

終電を逃してしまった日は往復で2時間になってしまうのに車で送ってくれたし、その時間が惜しいと気付けば朝7時出発を条件に家に泊めてくれたのだ。

私が勝手に、ユウキに会いたかっただけなのに。
自分の都合よりも私を優先して協力してくれることが本当に嬉しかった。
そして、毎度二人でするガールズトークが楽しくて楽しくて。
私にとってはそれもかけがえのない時間。

ありがたすぎて、大きな声では言えず、言葉を飲み込んだ。

送ってくれるのが、泊めてくれるのが、ユウキだったらいいのに。

こんなに良くしてくれる親友に心から感謝しながら、恋人ではないユウキに物足りなさを感じ始めていた。

一緒に居たくて、温かさが欲しくて、歪み始める。
人は、どうして慣れてしまうんだろう。
どうして、欲が深くなっていくのだろう。

そして、あるものを疑わないのだろう。

喉から手が出る

好かれている事に満たされて、毎日がハッピーだ。

休みの日に、もっと一緒に居たいという気持ちでモヤモヤしてしまうけれど。
平日の電話やLINEの甘い言葉に癒される。
たまに行けるランチデートも、すごく幸せ。

でも、この関係ってお友達なんだよなぁ。

あんなに甘い言葉や強引な仕草で、心を掴まれているのに。

「俺の事好きでしょ?」

「ちゆは俺のだから」

という言葉に、それ以上の意味はない。

私はちゃんと「好きです、付き合って下さい」という言葉が欲しかった。

そんなモヤモヤを抱えながらの休日。
ここ数日の私の沈み方を、ユウキは気にかけてくれているみたいだった。

「俺が送っていくよ」と言ってくれた。

はじめて座るユウキの車の助手席。

眩しくて、キレイとか汚いとかそういうのが目に入らない。
ただ、爽やかな色のエアースペンサーの缶が、いい匂いをさせている。

彼の空間に、2人きり…!!!

いい大人がバカみたいに緊張していた。

シートベルトをして、ライトを付けて。
助手席のシートに触れながら体を捻って後方確認したユウキが動きを止めた。

彼のキュンとする仕草ランキングで上位を占めるあの、バックの時のヤツ!!

その体勢で首を傾げてこちらを見るのは反則だと思うのです…ッ!!

私は気付かないフリで、何気なく窓の外を見た。

…はずなのだけど。真っ赤になって変な顔した私が窓ガラスに映り、そのガラス越しにユウキと目が合ってしまった。

「ねぇ、ドキドキしちゃってんの?」

「あー…ねぇ?これ、女子が弱いヤツらしいよ」

「おい。ドキドキしたのかって聞いてんの」

やめてやめてやめて。真剣な目で見ないで、溶けてなくなる…!

「…うるさい。早く、寝るの遅くなっちゃうよ」

「こっち見て。俺に、ドキドキしちゃったの?」

「う…して、なくは、ない」

自分が恥ずかし過ぎて消えたい。この、ヲタ臭を撒き散らしてしまう自分をどうにかやっつけることは出来ないだろうか。

バツが悪く不細工全開な私の頭をポンポンと撫でたユウキが「よく出来ました」と満足そうに笑いながら、車を発進させた。

ここから1時間のドライブ。
狭い空間で、甘い言葉を言われながら手を握られるという、心臓に悪すぎる時間は、早く終わって欲しいような、永遠であって欲しいような複雑な気持ちにさせる。

少しずつ家が近づいてくる。

寂しさに、握られた手をキュッと握り返してしまった。

「うわ」

ユウキから思いもよらない、ムードを無視した素の声が上がる。
しまった…!緊張しすぎて汗っぽいから、甲にしか触れられないようにしてたのに!!汗ばんだ手が気持ち悪くて引かれたかも…っ!!!!

穴を掘って埋まりたい気持ちになり、手を離そうとしたら、強く握られた。

動揺していると、ちょうど信号が赤になり。

車が止まったと思った瞬間、

強く手を引かれ、首へ伸びてきた腕に体が中央へ寄る

驚くよりも早く

柔らかいなにかが唇に触れる

思考停止。

すること、しばし

「ちゆさん…?目、開けてる派なの?」

そうなの。目は開いてたの。だからコンビニの光で影になったユウキくんが、ものすごい距離にいることはわかってたの。
ただ、離れるほんの僅かな瞬間に、「あ、まつげやっぱり長い」と思った。

そこでやっと物事が考えられるくらい、驚いちゃってる。

正確には、まだちゃんと頭が動いてない。
両手で口を覆ったまま、俯いて、今、何が起こったのかを考え始める。

1度送ってくれただけで、しっかりと家の場所を把握してくれていて。
私が道案内を放棄したにもかかわらず無事に家に着いた。ついて、しまった…。

「ちゆさん…、そんなに、イヤだった?」

車が止まり、固まったままの私へ少し悲しそうな声が届いて我に返る

「あ、ち、ちがくて、びっくりして」

「イヤではなかった?」

私は首がもげるほどに何度も大きく頷いた。
その様子を見て、なぜか悔しそうに「クソ…」とつぶやかれる。

「あーもう、この可愛い生き物なに?!離したくないんだけど!!」

駄々っ子のようなユウキの声と共に、私は腕の中に収まっていた。

手を握り返したこと、照れて動けないこと

どちらもツボだったらしく、きつくきつく抱きしめられた。

しきりに「ズルいわ~、ズルい。反則」と繰り返すユウキ。

ズルいのはどっちなんだ。こっちなんかときめきゲージ振り切って、温かさにうもれるしかできないんだぞ。

ずっと、こうして居たいと思った。
控えめに、ユウキの服を掴み、「恋人にして」と言おうとした瞬間。

ユウキのポケットでスマホが震えた。

振動の長さから、着信ぽいけど…ユウキは無視している。

「電話?こんな時間に用事かもよ?」

「今はちゆの方が大事でしょ」

コツンと額をぶつけながら言われたら、それ以上他の事なんてどうでもよくて。
私を優先してくれることに満たされる。

さすがに長時間、エンジンを付けた車が家の前に止まっているのは怪しいということで、抱擁もソコソコに解散することにした。

「俺、今夜はちゆとチューした夢しかみないわ。ちゆも、俺の夢見ろよ?」

子供みたいに笑いながら、ユウキが帰って行く。

吐息も凍る深夜一時。姿が見えなくなっても、車の走って行った方向を見つめ続ける。

触れあった事が嬉しくて、ますますユウキしか見えなくなっていく。


思い返すほどに、自分の盲目っぷりがコワイ(lll゚ω゚)

どん底まで尽くす女が我に返った瞬間①

2019-04-14

どん底まで尽くす女が我に返った瞬間②

2019-04-15






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