どん底まで尽くす女が我に返った瞬間④

どん底まで尽くす女が我に返った瞬間①

2019-04-14

どん底まで尽くす女が我に返った瞬間③

2019-04-17
登場人物
ユウキ…なぜか私に猛アピールし始めた年下の青年。二次元のキャラクターみたいにツボを押してくる!!

HANA…私の親友。合コンでヤッチンとユウキと知り合い、私に紹介してくれた。面倒見がよく、とても優しい!!

ヤッチン…ユウキの先輩。HANAと気が合うようで良いカンジに見える。

 
 
 

見えない

知ってしまったら、自分がおされられなくなる。

唇の柔らかさを、包まれる温もりを求めてしまう。

カラカラに乾いた心が、潤いを思い出したように。
愛されているというワンシーンを繰り返し繰り返し再現する

どうして

キスをされた翌日から、私とユウキの会話はより恋人っぽさを増して行った。

「もうちゆは俺のだから!」

「お客さんに言い寄られてない?ダメだよ」

「イケメン?俺より?ちゆが俺以外にトキメクとか許さない」

どうやらユウキは束縛っ気がある様子。本来なら、自由を愛する私にとって、相性最悪なのだけど…年下だという事もあり可愛く思えているから不思議。

束縛するのなら、もっとちゃんと縛って欲しい。

意識し始めて気付いたのは、ユウキから「好きだ」と言って貰えないコト。

似たような意味の言葉は良く使うし、言動から好意があることはわかるんだけど。「なにしてる?」とか割と細かく私の行動を聞いてくるような束縛くんが「恋人」のようなワードは使わない。

私が気になっているのはそこなのに。

手に入れてしまうと飽きるような人種が居ることを知っているから、怖くて聞けなかった。
でも、半端な関係でこれ以上、好きになってしまうのもイヤだ。

私は意を決して、ユウキに問う事にする。

「…ねぇ、ユウキは言葉で関係をくくるのがイヤな人?」

「あー…うん、ちょっと苦手かなぁ」

「ふーん。じゃぁ、職場で合コンに誘われてるんだけどどう思う?」

「はぁ?行かなくていい。行くなよ。なんで」

「だって、私フリーだし。ちゃんと恋人宣言してくれる人としか付き合うつもりないし」

「ちゆは俺の事好きじゃん。俺だけ見とけよ」

今日は、その手には乗らない。と、腹を括っていたのに。

「ねぇ、ちゆ…俺じゃ、ダメなの?」

唐突に、鼓膜を直接ふるわせるような、吐息交じりの声に仰け反った。
イヤホンマイクのマイク部分を口元に近づけて話すと、ものすごい耳元に囁きかけられてるようになるのだ。ユウキはそれがわかっていて、わざと艶っぽく訴える。

「ちゆき…俺、こうしてちゆと話してると、すげぇ幸せだよ」

息を吸う音、吐く音、低い声…イヤホンから聞こえる音が、わずかなノイズも含めて妙にリアルで。耳の奥がくすぐったくなり思考を奪っていく。

「ちゆは?俺と一緒にいて、幸せじゃない?」

「ちょ、ちょ、あの!近い!マイクが近い!!」

「わざとだよ…
苦手なの、知ってる。
俺でいっぱいになればいいのに

結局こうして弄ばれ、肝心な話ははぐらかされるばかりだ。

不穏な空気

好きだと言って欲しいのに言ってくれないのはなぜか?
でも、少しだけわかる気がする。

私は今年で29歳。

アラサーがしつこく迫る=結婚したい みたいに思われるのもイヤで、あまり直球で聞けない部分があった。

だから、控えめに、回りくどく確認したいのに。
私への束縛が強すぎるユウキが、絶妙に私を転がしにかかってくるから話が進まない。

こんなモヤモヤを相談するのが、決まってHANAだった。

いつも真剣に聞いてくれて、「あの様子なら、ユウキは絶対にちゆのこと好きだよ」とか、励ましてくれるのが嬉しい。

惚気と相談を繰り返すある日、
事件は起こった。

いつも通りに相談のやりとりをしている合間に、HANAが最初に合コンをした時の友人と会う約束があるからと話を切った。

私は、その用事が済めば、返信が来るものと思っていたのだけど…

次にHANAから来たメールは「事故にあって、ユウキに助けて貰った」というもので。

私には何のことだかわからないし、その日は2人とも連絡があまり返って来なかった。

HANAのことが心配で、でも同時にユウキを頼る行為が恨めしくもあった。
私はそんなにカンタンにユウキと会えないのに、ズルい。

親友を相手に、関係を疑ったりはしていない。
ただ、単純に。HANAはヤッチンに会えばいいのに…どうしてユウキといるのかという妬みだ。

そして、その後。余計に私の中の黒い感情が大きくなった。

どうにもHANAの事故後から、2人の関係が親密になった気がする。

私が真剣に相談していても、HANAからの返事が素っ気なくなった。
前日までは私と同じ熱量で返してくれていたのに、「あ~、彼は、そういうところもあるよね」みたいな、ちょっと『彼を知ってます』という言い回しが増えたのも気がかりで。

逆に、ユウキへHANAの話題をふると、すぐに方向を変えられるようになったのだ。

男女の関係性にめちゃくちゃ鈍い私でも、何かあった事だけは察していた。
はぐらかされて終わっているけれど、ユウキの一番は私でありたいという気持ちがますます強くなっていく。

ホテル住まい

ユウキと少しでも一緒にたくて、焦りまで感じている私に幸運が舞い込んだ。

仕事の出張の話が上がったのだ。

私が勤めている会社は割と大きな規模で、たくさんのサロンを経営している。
その中でたまに、技術向上と人員の調整のために、担当サロンからほかのサロンへと派遣されることがあった。

基本的にリゾート地への勤務になるため、今回はHANAたちの街にホテルを借りて、そこから出勤する形になる。
2週間という期間、会社の借りたビジネスホテルに住むことになった。

本来ならば皆が嫌がる出張なのだけれど、私は嬉しくて堪らなかった。

汽車の時間を気にせず、好きなようにユウキに会える!!

嬉しくて、一緒に居たくて、すぐに連絡した。

「まじかー!それは、夜中でも会えるじゃん!ヤバいなぁ、帰したくなくなる」

嬉しそうなユウキの声を聞いて、どれほどホッとしただろうか。
一緒に居れば、変に不安に思う事なんてない。

そう信じて、私は快く出張を引き受けた。

外泊

慣れない場所での勤務は、緊張もありものすごく疲れる。
といっても、私は人へ触れること自体は好きなので、場所が変わってもコースを任されれば楽しくマッサージすることができた。

なによりも、帰ればユウキに会えるのだ。

声を聞くだけじゃなくて、生身のユウキに会える。
それが嬉しくて嬉しくて疲れている場合じゃなかった。

「会いたいね!会おう!」

お互いがそんなノリで、待ち合わせた。

私の仕事が終わる深夜1時半、ユウキがホテルへ迎えに来てくれた。

喜んで車に乗り込み、眠たそうなユウキの頬を撫でる。

「ふふふ、本物のユウキだ」

「なにそれ、俺に会えてそんなに嬉しいの?」

会いた過ぎて、私の謎のツンツンキャラがログアウトした様子。
ペタペタとユウキに触れて笑う私に、今度はユウキが照れていた。

「あの、さ…これからどうする?」

「どうする?とは?私はユウキと一緒に居られればどこでもいい」

「いや、本当は部屋に連れ込もうかと思ったんだけど、親が来ちゃってさ」

「えっ!ごめん!!ご両親来てるのに…!!親孝行して来ていいよ」

そもそも、お付き合いもしていない男性の部屋に、深夜一人でお邪魔するつもりはなかったです。過去に少々おイタしてるので。
逆に、ご両親を放って来させたことが申し訳なくて解散を提案すると、それはあっさり却下された。

「カラオケとか、ネカフェ…?フリータイムでのんびりするとか」

「さすがに明日仕事あるから、横になりたいな…ちゆ、俺の事信じてくれる?」

「え…、なに…、信じてるよ」

ポンポンと頭を撫でてから、車が向かった先はとてもおしゃれなホテルだった。

「ユウキくん…、私、さすがにちょっと」

「何もしない。…あ、ウソ。ギュウしたいだけ。ヤバいからチューもしない」

昭和の女なので、中に入ったら文句言えないって思ってるから。そんなカンタンにホテルは、ちょっと。

「俺、ちゆを悲しませたりしない。絶対守るから、大事にするよ」

何から守るというのか。ギュウと抱きしめられて、深く思いつめたような声で呟くユウキが弱々しく見えた。

背中に腕を回し、頭を柔らかく撫でながら、私は頷いてしまう。

「うん。信じてる。大丈夫だよ、私はどんな時もユウキの味方で在りたい」

少しでも力になりたくて、「信じて」というのなら、信じたくて。
顔を覗き込んだら、泣きそうな顔をしていたから、大袈裟だなと思った。

一夜

室内に入ると、飽きるくらい抱き締めて、お酒を飲んで、ベッドへ横になる。

腰や肩が疲れたというユウキにマッサージをしてあげながら過ごす時間の、なんと幸せな事か。

眠たくなってきて、腕枕で寄り添う。

肺いっぱいにユウキの香りを吸い込んで、ぬくもりを一人占め。

「ちゆ…?そんなに俺の事好きなの?」

その仕草や表情が、なによりも物語るのだとユウキがいう。
私に自覚はまったくないけれど、細胞全てで愛しいと伝えてくるらしい。

そんなスキルがあったなんて知らなかった…。
たしかに、私は夢中になると一点しか見えないタイプだけれど、意識を持たない細胞さえも好きって伝えてるヤツ、異常過ぎて怖くない?!

自己肯定感が低く、「アラサー女子の結婚願望は重い」という世論を真に受けていた私は、慌てて殻を閉じる。


「男の人に抱っこされるの久しぶりだから、堪能して置こうと思って!」


なに、その、遊んでる人風のコメント―!!!

遊んで歩いたことないからわからないけど、重さを感じさせないようにしたくて方向性を間違えたヤツ。イメージは男をとっかえひっかえしてる悪い女だったのだけど、ウソ臭さ3000%。

「はぁ?」

ユウキの表情が強張る。

体を起こして、怖い顔で見下ろされながら、私は「間違えた」と心から反省した。帰るって言われたら、ココからタクシーでビジネスホテルに帰るのツラいなぁ…。

無言で刺さるユウキの視線。

でも、言ってしまったモノは取り消せないから。変に覚悟を決めて、フラれるなら、それはそれだと腹を括った。

恋人以外とイチャイチャする気はないのだ!

通常の私であれば、相手の怒りなどを察してフォローに入るところなのだけれど。なんなら、うつ伏せのまま頬杖をついて「なぁに?何か気に障りました?」とばかりに挑発的な笑みを浮かべる。

気分は遊び人だからね。スイッチが入ってしまえば、なりきって振る舞うのが私の長所であり短所である。

どのくらいの時間かはわからない。長いような短かったような。

ゆっくりと呼吸をしながら、ユウキを見据えて首を傾げる。
それと同じか少し遅れて動いた彼に、手首を取られてベッドへ抑え込まれた。

力で強制されることを極端に嫌う私は、つい条件反射で振りほどこうと動くけれど。成人男子に体重をかけて抑え込まれれば、敵うはずもなく。
自分よりも力の強い相手が、こうまでして何かを訴えようという状況に口角が上がった。

「ユウキだってモテるでしょ?お互いにフリーだもんね」

圧倒的に有利な体制のユウキが、苦い顔に歪む。

怒っているような、悲しんでいるような
傷付いているような、獣のような

情熱的な瞳に、私が映ってい事が嬉しくて、心が満たされていく。

この人を、こんなにも乱しているのが自分だという優越感。

歪んでいるかもしれないけど、この瞬間に、細胞レベルで愛しいと思った。

それが本当に、彼に訴えかけるのか。
呼応するように、今にも泣きだしそうな顔をしたユウキが唇を重ねてくる。

体も脳も酸素不足でボンヤリする頃、ようやく離れた彼の顔が私の首筋へ押しつけられた。

「ちゆ、お願い…少しだけ、待って欲しい」

くぐもった声が耳元で、切実に訴えた。

「なにが、どのくらい?」

「言ったらダメになってしまいそうだから、それは言えない。」

きつく抱きしめたまま、ユウキの話を静かに聞いた。
夢に対して、仕事に対して、全てが中途半端な自分は私に相応しくないらしい。
でも必ず、迎えに行くから。信じて欲しい、と。

相応しいとか、どうでもいいから恋人にならん?

言葉を飲み込んでしまったのは、あまりにもユウキが弱々しくみえたから。

出会った時から自信満々だった彼の、そんな姿を支えてあげたいと思ってしまった。

抽象的な言葉でごまかされたような気もする。
でも、こんなに自分の事を語ってくれたのがはじめてで、嬉しかった。

「…うん。でも、ずっとは待たない。掴まえておかないと、後悔しても知らないよ」

「あー…それは大丈夫」

弱々しかったユウキが顔をあげて、ニヤリと意地悪く笑みを見せる。
あ、その顔、好き。

元気が出たらしい彼に安心してしまったのも束の間、ユウキは耳にチュッとキスをして、がっしりとホールドした。

「俺以外、見えなくしてあげる」

あぁ、そうだ…この人、そういう人だ…

「俺で頭おかしくなればいいのに」

ごめんなさい、なってます。もう、くすぐったいし、セリフがやばいし、ユウキがあっついし!!!

「こんなに可愛い顔、
他の誰にも見せたくない」

私はこの時、初めて知った。
キュン死という言葉は、表現であって実際に死ぬことは、出来ない。

線を越えた先

結局この日は朝までじゃれ合い、寝不足のままお互いに出勤するというカオスだった。
ユウキのご両親はいつ帰るかわからないという事で、ホテル滞在中の2週間のうちに夜に会えたのは初日を含めて5日くらい。

それでも、仕事終わりに会えることが嬉しくてウキウキだった。

同時に、弱みを見せたことでお互いの心が気を張るのを放棄し始め。
結局は曖昧なまま一線を越えてしまった。これについては反省がすごい。私の意思が弱すぎたことをめちゃくちゃ反省しているのだけれど。

ユウキという男の魔性もすごかったのだと言い訳に使わせてほしい。

言い訳した上で、越えるべきでなかったという反省を、また上書きしたい。

親密になった事で、首を絞めることになったのだ。

触れ合うたびに愛しさが込み上げて、幸せに浸る。
けれど、束縛し合える関係ではないことに寂しさを感じる。

望まなかった展開に、自分でしてしまった後悔。
その後悔を埋めてくれるのが、ユウキだというのだから。
どツボにハマっているじゃないか。

それ以上に私が悩んだのは、HANAとの関係もあった。

ユウキと一緒に居る時間が増えて、連絡もまばらになったけれど…
悩み事は彼女にすぐ相談するのがクセになっており、何かある度に電話やメールを送っていた。

ヤッチンとの関係も気になるし、惚気も悩みも聞いてほしい。

しかし、なんだか素っ気なさが増しているのだ。

私は熱烈に、HANAへラブコールを送った。
何かあるのなら、私が悩みを聞きたいし力になりたい。
ユウキの事で悩んでも居るけれど、こんなに誰かを好きになったのは生まれてはじめてなので、引き合わせてくれた彼女にはとても感謝している。
単純に、HANAと会って話がしたい。かけがえのない存在だから。

「いつも都合よく扱っている」と思われていたらイヤだった。

きちんとHANAとも向き合いたい。

純粋に、その気持ちでご飯に誘うと、HANAはどうにも歯切れ悪く、誘いに乗ってくれた。

ホテル滞在を終了した次の日に会う事になったため、私は思い切って車で街へ向かう。

これは私の誠意だった。

もし、親友に男性絡みでイヤなおもいをさせてしまっているのなら、これ以上迷惑をかけたくない。だから、自力で帰れるように慣れない道を運転する。

車で現れた私に、HANAはとても驚いていた。
そして、優しい彼女は大きな駐車場に私の車を止めて、「街なかの運転は不安だろうから」と助手席に乗せてくれた。

2人ともアルコールは飲まないけれど、メニューが好きなのでチョイスした居酒屋。
程よく賑やかで、料理も美味しくて、ノンビリとした時間に頬が緩む。

「HANAとこんな風に過ごすの、やっぱり落ち着く!何でも話せるし、気が楽で、最高に癒されるよ、ありがとう」

私はいつもの通りご機嫌で感謝を告げた。
…途端に、HANAの顔が曇る。

「…ちゆ、ごめん。

本当に、ゴメン。ユウキの事で隠してることがある」

言いにくそうに、でも、心を決めた強さで口を開いた。

「きっと、ちゆが傷付くの、わかっているけど…許してくれなくても良いから」

ピンと空気が張り詰める。真剣な表情で、言葉を選びながら。こんなに慎重に話すHANAを見るのは珍しかった。

次の言葉を探す間。

その一瞬のうちに私の中が黒く染まる。
やっぱり、HANAはユウキと二人でなにか私に隠し事をしていたんだ。
気のせいかと思いたかったのに、気のせいじゃなかったんだ…

秘密を共有するという行為だけでも特別感が妬ましい。
これ以上にいったい何を隠しているというのか…

私は、想像だけで爆発しそうになる頭を冷やす様に、グラスのウーロン茶を飲みほした。



ここまでに撒いて来た、フラグを回収していきます(*´・д・)

どん底まで尽くす女が我に返った瞬間①

2019-04-14






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