どん底まで尽くす女が我に返った瞬間⑥

どん底まで尽くす女が我に返った瞬間①

2019-04-14

どん底まで尽くす女が我に返った瞬間⑤

2019-04-19
登場人物
ユウキ…猛アピールして来たくせに、彼女持ちだった魔性の21歳。サヨナラしたハズが、再び連絡が?!

HANA…私の親友。私が幸せになるように、心から願って協力してくれる。

ヤッチン…もはやHANAからも話が出ないけど…?

 

尽くす女の悪いクセ

半信半疑でシャワーを浴び、鏡を見れば腫れまくりの目元に眉が下がった。
保冷剤で冷やそう…と、一瞬考えもしたけれどアホらしくなってメガネをかける。

残念ながら、気持ちが落ち込んでいて最低限の身支度もままならない。
ムラが無いようにBBクリームを塗り、眉毛だけは丁寧に書いて、アイメイクをうっすらと。一応、完成系を確認すると、色味のない顔がおばけのようにボーっと青白く、慌ててチークを足した。

なんとかメイクが完成した所で、着信音が響く。

「ちゃんと準備してた?着いたよ!」

着いたよ!じゃないわ…ッ!

本当に意味がわからない。
展開が受け入れられない。

窓の外を覗くと、もっさり雪が積もって真っ白。
家の前には2トンのトラックが止められていた。
運転席から、無邪気な笑顔が手を振っている。

心臓が苦しい。変な病気かもしれない…

「私、用事があるから職場に早くいかなきゃいけないんだけど」

この時の感情は、面倒くささとユウキへの軽蔑が大多数を占めていた。
いろんな事柄を全てまとめて「信じられない」

「大丈夫!あっちで飯にしよう」
「は?!仕事は?」

「ちゆに会いたくて、
先輩に担当区域バクってもらった!」

バクるっていうのは、北海道弁で交換という意味。
仕事への責任感というものはないのだろうか?
ユウキも当然だけれど、先輩も無責任だ。

それを、こうも嬉しそうに言ってくるなんて。

昨日の出来事は夢か何かだと思っているのか?

「ほらー!時間なくなるから早く!雪下ろし手伝ってあげるから」

言うが早いか、私の車に20センチほど積もっている雪を、自分のトラックから降ろしたスノーブラシで払い落とし始めるユウキ。

そんな事では騙されない

そう、思うのに…
本来なら自分でするはずの面倒臭い作業をしてくれているとなれば、なぜか恩を感じてしまうのが尽くす女の悪い癖なのだろう。

彼は好きで、彼自身がそうしたくて、勝手にやっているのに。

私のために、大変な作業をしてくれる。
そんなものは私の勝手な妄想だということに気付かないんだ。

そして、「こんなにしてくれるから、お返ししなきゃ」と好意を貢ぐ。
「私からも何かしてあげたい」と、好意を貢ぐ。
全てが無意識に、そうしなければ対等じゃないと思ってるから性質が悪い。
自分が与えすぎているなんて、微塵も気付かないんだ。

当然。この時の私だって、そんなクセに気付く訳も無く「ありがとう!」と笑顔を向けていた。

催眠をかけているのは誰?

運転が苦手な私を気遣って、途中からユウキがトラックに乗せてくれた。
私の車を職場の近くに止めると、日常で座る事のないトラックの助手席へエスコートされる。

差し出された手を払った私に向けられる、寂しそうな、でも、嬉しそうな複雑な瞳に動揺した。
「悪いコトをした」気持ちになった。

軽自動車よりも高い視線。車が走り出すと、いつも見ている景色なのに全く違って見える。
雪が積もったせいで、反射して眩しい事も手伝い、涙が出そうなくらいにキラキラと光っている。

「…このまま連れ去ったら怒る?」

「バカなの?そういう感じなら、今すぐこのドア開けて飛び降りる」

「バカバカバカ!それは俺が起こられるからやめて」

私の気持ちも、彼女さんの気持ちも無視するような発言に腹が立つ。
一瞬でも、ドキッとした自分に腹が立つ.
ちょっと雰囲気だして来たくせに、一瞬でふざけた会話のテンションに戻すユウキに腹が立つ!!

口説くなら徹底的に口説けや!!

中途半端なんだ。
その気にさせるなら、オチまで面倒みろよ。

昨日、ものすごい裏切られた気持ちになったというのに…
 もしかしたら、彼女さんと別れてくれるかもしれないっていう淡いあわ~い期待を持っている自分も中途半端だ。

「…怒ってんの?」
「反省してる、が、正しいかな」

「俺に彼女が居るって、そんなにショックだったんだ…」

嬉しそうに言われて、反論が出来なかった。
「俺の事そんなに好きなんだ」と言われたような気がして。
浮気男なんて軽蔑する対照なのに、ユウキは特別な気がして。

こんな会話と、向けられる無邪気な笑顔に惑わされる。

何を信じていいのかわからない私は。
ユウキが本気で私を選んでくれるかもしれないという希望が拭えない。
ユウキが根っからのいい加減男で、結局私がバカを見るという絶望を拭えない。

芯も無くブレブレの中で、「私はユウキが好きだ」という感情だけが厚く塗られていく。

ある友人には『なにかに憑りつかれているみたい』だと言われるのだけれど…
そのキッカケはココにあるのだろう。

ショックでボーっとしてしまった私の心の奥の部分に、スッと根を下ろした「催眠のタネ」。
重ねて重ねてかけられていく暗示に、ユウキという存在が大きくなっていく。

この日も、まだ素直に受け入れられない私は、最初のように可愛くない態度を取りながら「彼女のことを大切にしなさい」と説教する。
その度に「ちゆの方が素敵な女性だ」と繰り返されれば…優越感に頬を緩ませても仕方ないじゃないか。

彼女の知らない秘密を、
ユウキと私は共有している

最低すぎる思い上がりを、当時の私は少なからず「心地よく」感じてしまった。
私が彼女さんのことについて、悪く言ったり、バカにするような事はなかったけれど。見えない所で傷付けていた罪は一生消えないと思ってる。

そんな罪にさえ、彼と会うために捧げるべき良心だと思っていたのだから手に負えない。

ダメだと思うほどに、囁かれる甘い言葉が精神を侵していった

ほんの少し、あと少しだけ

私が彼女さんの存在を知った事で、ユウキが素を見せることが多くなってきた。
HANAがフォローしてくれていた事も本当で、私に隠し事や騙すような状態で過ごす事がとても気がかりだったらしい。

それなら、さっさと別れたらよくない

どっちも惜しくて選べないのはどっちも要らないのと一緒
私は友人から恋愛相談を受けると、そんな風にバッサリと答えてきた。
自分で選びもせず、選ばれる努力もせず、どうしようと悩むことがキライだったから。

私の人柄的によく、柔らかく温厚そうだと言われるのだけれど、中身はなかなかにさっぱりしていたりする。
というか、白黒はっきりしていないと気持ち悪いし、一度黒だと思ったらなかなか白だったと認められない頑固さも持ち合わせていた。

いろんな状況に揉まれたり、いろんな人との出会いでかなり丸くなったとはいえ、思い込んだら一直線という性格はなかなか変わらないモノだ。

それなのに、ことユウキに関わると全てが歪むのだから困ったもので。

私自身の感覚としては、「もう少しだけ会ってあげる」だった。
本来ならバッサリと切るような関係だけれど、もしかしたら彼女さんと別れるかも知れないから。

延長が延長を重ねて、一緒に居る時間が増えていく。

煮え切らない私たちに、HANAがユウキの部屋に行くことを提案した。
私が現実を見ることに期待したのか、ユウキに対して意地悪をしようと思ったのかはわからないけれど。

はじめて入るユウキの部屋に、ドキドキと緊張した。
はじめてみる、仲睦まじい笑みを見せた彼女さんとの写真に嫉妬し。
ジリジリと脳のどこかの神経が焼き切れたような気がする。

夜も更けてHANAの車の中。

「あと少しだけ様子見てみようかな。

そばで支えてあげたい

きっと私は、ひどい顔をしていただろう。
遠距離で何も知らない彼女さんに対して、この瞬間、一番汚い感情を向けていたに違いない。

好きなら、離れなきゃ良かったのに。

寂しがり屋のユウキを、私が癒してあげよう。
会いたい時に飛んで来て、抱き締めてあげよう。

彼女さんが
してあげないのが悪いんだから。

麻痺していく

私の職場は女性ばかりで、20歳そこそこの若い子達と仲良くやっていた。
店長だけはまもなく50歳になるという話だったけれど、そんな年齢差は関係なく尊敬できるし、なんでも話せるような間柄だ。
この職場に素直ないい子達がそろっているのは、サバサバしていて思いやりの深い店長の人柄が引き寄せるのだろう。

みんな恋バナが好きなので、この手の話は大好物。
私は出会いから相談するような惚気るようなスタンスで、みんなに話を聞いて貰っていた。

「年齢に関係なく、応援しますよ!」
「ちゆさんをそれだけ惚れさせる男、見てみたい」

なんてキャッキャと聞いてくれていたのだけれど、「彼女が居る」という展開からは空気が変わってしまった。

「ちゆさん!そんなダメ男やめましょう。もっといい人いますって!!」
「そのダメ男にちゆは勿体ない!やめなやめな!」

みんなが私を好いてくれているので、圧倒的に私の味方で居てくれるがゆえに、ユウキの株ががっくりと下がったのだ。

そんなダメ男だけど、私は好きな人がケチョンケチョンに言われることがツラくなり、話題に出すことを控えるようになった。
7人居る同僚たちの6人には、ユウキの話が出来なくなってしまう。

悩みとか、聞いて欲しいのに…
みんなが私とユウキを引き離そうとする…

そんな、障害いらないのに。

障害があるほど燃えてしまう

「別れるべきだ」と言われるほどに、執着して行ったのは確かだった。

丁度その時に、同じようなタイミングで男性トラブルを抱えていた子だけは、お互いのダメな所を慰めあったりするのに話を聞いてくれていた。
お互いに「そんな男こっちからフッてやるか!」なんて言いながら、離れられない乙女心に共感することで癒される。

自分の人間関係のバランスが、悪くなっていくと同時に。
罪悪感と優越感のバランスもおかしくなって行った。

ユウキとHANAと遊ぶときには、ヤッチンの代わりにジュンさんという先輩が加わるようになった。理由を聞くとHANAが面倒くさそうに「夜は奥さんと子供と過ごすから、あまり出られないんだって」と言う。

HANAの反応が正解なんだと思った。
守るべき人が居るのに、他の女性に目移りして誘って。そんなのヒドイ裏切りだ。軽蔑して、無意識だろうけれど、存在も無かったかのように幻滅するのが普通の感覚なんだと思う。私もそうなりたかった。

それなのに、「ユウキが独身で良かった」とも思ってしまった。

恋人ならいつでも別れられるでしょ?
書類のやりとり必要ないもんね。

情けない程に、倫理観とか道徳観とか、自分の中の全てを誤魔化してユウキという存在を正当化している。

「ちゆ…今夜、一緒に居てよ…
彼女に別れ話をしようとすると、ヒステリックに泣かれて進まないんだ。
俺はちゆと居たいのに、それだけなのに」

ユウキの言葉は全てが正解になっていく。
私に出来る事は、なんでも、してあげたくなっていく。

「それだけユウキが魅力的だもん、彼女さんの気持ちもわかるよ」

うそだ。

心の底では、泣いてないでさっさと別れろと思っているクセに。

女神様でも気取っているのか、微笑みながら腕の中に包みこんで悦に浸る。

愛しくて、愛しくて、離したくない。
どうしようもなく汚くて、どうしようもなく純粋な気持ち。

朝陽に照らされると、私の元には何も残らなくて。
虚しくて、欲しくて、ただひたすら涙が流れる。
夜の間満たされていた心が、どんどん空っぽになっていく。

好きなのに、好きでいちゃいけない。
幸せなのに、それは幸せではない。

私自身を削りながら、ずっと幻を追いかける日々。

次の予定を聞くと、しばらく会えないと言われた。
私の、ほんの一瞬の幸せな時間さえ作れないと言われた。
年末年始だから、仕方ないか。

「あ、実家に帰るの?私は連勤で会えないからちょうどいいや」
「あ~いや、来るんだよね」

濁されて、気付かなかったわけじゃない。
でも、気付きたくなかったからその日はテキトーに流した。

12月30日、いつも通りの電話をしても出てくれない。
LINEもなんだか反応が悪い。

「今、どこにいるの?」
空港に来てるよ~」

流せなかった。

「もしかして、彼女さん帰省してる」

「うん(笑)俺んち泊まる」

心臓が張り裂けて死んだら、ユウキが病院に駆けつけてくれないかな?
彼女さんなんて放って、私の元へ。


どん底まで尽くす女が我に返った瞬間①

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